ひまわりのたね通信

大森先生の研修のまとめ

  JIAMでの研修2コマ目の大森彌先生の講義をまとめました。長文ですが掲載します。

「超高齢社会における医療・介護・福祉の体制」
東京大学名誉教授  大森彌

<超高齢社会像と政策課題>

超高齢社会は、全人口に占める65歳以上人口の比率が、7%〜14%までを「高齢化社会」、14%〜21%を「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」といっている。日本は2005年に21%となり超高齢社会であるが、団塊の世代全体が後期高齢期に入る2030年には28%となり、長期見通しに立った必要な介護サービスとその経費を考えておかなければならない。
日本の高齢者人口推移の特徴は、高齢化進展の速さと同時に、その高齢化率の高さにある。現在2950万人である高齢者人口が2025年には3500万人に達する。それに伴い重視しなければならない点は、
? 第1号被保険者2900万人のうち要介護認定者数は479万人、サービス受給者は407万人であり、8割以上の高齢者が元気であること、したがって、高齢者介護サービスのモデルを「介護+予防」として充実させること。予防の取り組みを重視し、元気な高齢者が地域を支える仕組みを作ること。
? 高齢夫婦、一人暮らし高齢者世帯の増加が著しく、「家族同居モデル」から「同居+独居」モデルへの転換、地域包括ケアシステムの確立が必要。
? 本格的な地域医療体制の整備と地域における医療・介護・福祉の一層の連携強化。
? 認知症の増加に伴い、介護サービスを「身体ケア」モデルから「身体ケア+認知症モデル」へと転換する必要がある。また、要介護度の判定は心身の状態の重篤度ではなく介護の手間で決めている。認知症高齢者に対する介護の手間を推計する必要がある。
? 大都市地域では高齢者の数が膨大な数になる。大都市地域での高齢者ケアをいかに充実強化することが切実な政策課題となる。

介護保険は、在宅ケアを重視しているが、在宅サービスは依然として不十分である。自宅で介護を受けたいと考える高齢者が多いが、訪問介護サービスは必要なサービスの75%をカバー出来ておらず、施設介護への流れる構造が断ち切れていない。
 市町村の役割は、保険者でもあり住民に最も身近な自治体である故に介護保険サービスと不即不離にある地域生活支援(声かけ、見守り、配食・会食、移送、買い物、財産管理などの権利擁護、虐待防止、緊急時の対応など)を地域のネットワークの中で提供する責務を負っている。その充実強化があってこそ介護保険サービスも活きるのである。
 介護サービスの「あるべき姿」とは、できるかぎり住み慣れた地域で暮らし続ける、自らの希望と選択でより良いサービスを受けることが出来る、施設・居住系サービスをスウェーデン並みに拡充する、24時間対応など多様な在宅サービスを提供する、施設も地域に密着した小規模化・ユニットケア化するといったイメージである。このように地域医療・介護サービスの充実を約束した上でそれに必要な負担を国民に求めるのが筋である。
 政府は、社会保障の将来ビジョンとそれに必要な財源確保の見通しを示す必要がある。2012年度の介護報酬と診療報酬の同時改定に向けて、医療・介護・予防・住まい・生活支援サービスを切れ目なく、有機的かつ一体的に提供する「地域包括ケアシステム」を実現していくことができるといえよう。

<診療報酬・介護報酬改定等について>

 平成24年度の診療報酬・介護報酬の同時改定は「社会保障と税の一体改革成案」の確実な実現に向けた最初の第一歩であり「2025年のあるべき医療・介護の姿」を念頭において以下に取り組む。
・救急、産科、小児、外科等の急性期医療を適切に提供し続けることができるよう、病院勤務医等の負担の大きな医療従事者の負担軽減・処遇改善の推進を図る。
・地域医療の再生を図る観点から、早期の在宅療養への移行や地域生活の復帰に向けた取組の推進など、医療と介護等の機能分化や円滑な連携を強化するとともに、地域生活を支える在宅医療の充実を図る。
・がん治療・認知症治療などの推進のため、これらの領域における医療技術の進歩の促進と導入を図ることができるよう、その評価の充実を図る

よって、診療報酬改定率は+1.38%
    薬価改定率は−1.38%

・介護サービス提供の効率化・重点化と機能強化を図る観点から、各サービス間の効果的な配分を行い、施設から在宅介護への移行を図る。
・24時間定期巡回・随時対応サービスなどの在宅サービスや、リハビリテーションなど自立支援型サービスの強化を図る。
・介護予防・重度化予防については、真に利用者の自立を支援するものとなっているか問い観点から、効率化、・重点化する方向で見直しを行う。
・介護職員の処遇改善については、これを確実に行うため、これまで講じてきた処遇改善の措置と同様の措置を講ずることを要件として、事業者が人件費に充当するための加算を行うなど、必要な対応を講じることとする。
 なお、介護報酬の考え方と整合をとり、平成24年度障害福祉サービス等報酬改定は、福祉・介護職員の処遇改善の確保、物価の下落傾向等を踏まえ、改定率+2.0%とする。

考察
 以前より大森先生の講義は何度も聞いていましたが、自治行政学に関する講演が多く先生が介護保険に大きく寄与されていたことを今回の研修で初めて知りました。(日本の介護保険制度の生みの親のひとり。1990年代、「厚生省 高齢者介護・自立支援システム研究会」座長を務め、後の介護保険制度の骨格を作った。内閣府・独立行政法人評価委員会委員長、厚労省社会保障審議会委員、同審議会介護給付費分科会「介護施設等のあり方に関する委員会」委員長)
 介護は8兆円にのぼる高度成長産業となってきましたが、本来の介護の在り方とは大きく異なり、施設中心の介護なっており、在宅ケアを中心にしたサービスがおろそかになっています。その原因としては、事業者の都合と家族の希望によるところが大きく、介護を受ける側の本人の意向が尊重されない現状があります。
 大森先生は、デイケアの介護報酬を引き下げその分を訪問介護強化へ回すことなどを提案されていました。ただ、訪問看護ステーションなどは人材が大きく不足している現状や、可児市においても本年4月にオープンする特養の介護士が集まらず分割オープンせざる得ない事情があったりと、いろんなところで施設介護の問題が出てきています。保険者である市が、この辺りの仕組作りや在宅ケアのネットワーク作り早急に行うことが大切であり、介護保険計画も現在の3年スパンの計画とともに、長期に及ぶビジョン作りが必要となります。国保、医療、介護が一体となった保健活動を行うことも重要な課題です。

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

カテゴリー

過去記事

PAGE TOP