ひまわりのたね通信

研修報告

 第1回SCHネットワークシンポジウム

東北芸術工科大学は、山形県と山形市が各100億円ずつを支出して設置し、学校法人東北芸術工科大学が運営する日本初の公設民営方式の私立大学であり、今回のシンポジウムを主催したコミュニティデザイン科は山崎亮教授(ランドスケープデザイナー。コミュニティデザイナー。株式会社studio-L代表。公共空間のデザイン、プログラムデザインやプロジェクトマネジメントに携わる)が運営する民間会社studio-Lが大学の敷地内を拠点に活動する新しい形の学科となっている。
この学科は、地域の魅力や価値を引き出し、人と人を繋ぐことで課題解決に貢献できる人を目指す、国内初の学科でワークショップや、地域の想いを表現する冊子や映像の制作、商品開発などを行っています。

今回のシンポジウムは「高校生meets地元」〜高校を人材流出装置にしないためにできること〜と題し、基調講演として「いま、高校を地域に埋め戻すとき」浦崎太郎 可児高等学校教諭。

事例紹介として、
? 「地域課題解決で大きく成長する生徒たち」眺野大輔 富士市立高等学校指導主事
? 「市内4つの高校生が参加するまちを変える活動=まち変」町田英俊 鹿沼市市民活動家
? 「高校生は地域の原動力」大脇政人 隠岐島前高校卒/早稲田大学3年

提案
「高校生は地域の原動力」 岡崎エミ 東北芸術工科大学コミニュティデザイン科准教授

ワークショップ
「高校が人材流出装置にならないために、私たちは何が可能か?」

以上の内容でシンポジウムが行われた。参加者は北海道から長崎県まで教師、NPO団体、市町村職員、議員など105名とデザイン学科の先生と学生の120名ほどであった。当初の予想では40名程度であったとのことだが約3倍の参加者があり、地方におけるこれらの問題に対する関心の高さが伺える参加人数となった。

 基調講演では可児高等学校が行っている「エンリッチプロジェクト」地域課題解決型キャリア教育について報告があった。可児市議会としても支援をしているこの事業には多くの参加者からその仕組みや運営について質問を受けた。
 次に富士市立高等学校では、市立である強みを十分生かし自治体行政(市役所)と一体となった活動を行っている。学校の事務は全て市の職員ということもあり、横の連携や各課からの協力や支援が受けられやすい環境にあることや、情報の共有など双方向の繋がりが形成されている。学校では3年間を通し探究学習のスキームを作成、チームを編成して課題解決に取り組み、地域、社会へのプレゼンテーションを繰り返し行っている。中でも「市役所プラン」は地域住民の一人として、地域課題とその現状を知り、その解決に向けて何をすればよいかを理解し、その解決に向けて自ら行動できる力を育成するもので、「辞令の交付→地域を知る→課題発見→調査分析→中間報告→企画実行→提案報告→評価」するもので、「高齢者の生きがいづくり」「健康を手に入れるための運動する環境を整える」「富士市の排水水質をCOD13ppm以下」「騒音振動問題を解決するための市民とのコミュニケーション」「防災訓練を積極的に行動する訓練に変えていく」など提案を行っている。このような活動から、高校生が地域社会から担い手として大きな期待をされていることに気付き、自分たちも何かが出来るのではないかという気持ちを持つことができた。また、実に大人が仕事で取り組む課題解決のサイクルを体験することでキャリア教育としての効果も高い。学校ではこれらの活動内容をニュースレターに掲載し発行しており、地域の理解をより深めるための情報の発信を行っている。
 鹿沼市では「高校生のつながりをエネルギーにして鹿沼を活性化させる」をキャッチフレーズに市内4高等学校の生徒を主体に様々な事業を一年計画で企画・運営をし、鹿沼市の経済的、文化的活性化を図ることを目的として「高校生まち変プロジェクト会議」が発足し、若者の地域やまちづくりへの関心を高め、彼らの若さあふれるエネルギーと柔軟で豊かな発想をまちづくりに聞かすことを目的に様々な活動を行っている。現在、「4校合同文化祭」と「鹿沼市PR映画」の企画制作を行っており、その活動資金についても鹿沼南高校で育てた梨とトマトを使ったオリジナルジェラートを考案し販売している。また、高校生自らが企画提案し、市の市民協働モデル事業補助金を獲得するなど、活動の幅を広げている。
 最後に海士町は島根県隠岐郡の町である。隠岐諸島の島前三島のひとつ・中ノ島に位置する。
面積33.5平方キロ、世帯数1,100世帯、人口2,451人の離島だ。この海士町の唯一の高校が新入生の半数が島外からの留学生という島根県立隠岐島前高だ。美しい海に囲まれた自然豊かな静かな島。海産物や農産物にも恵まれているが、生活環境は厳しい。本土からはフェリーで3時間、しかも1日数便しかない。そんな離島の島前高校に入学したいと希望する生徒やその保護者が急増している。海士町では2008年に「高校魅力化プロジェクト」を立ち上げ、このプロジェクトのために島外からも人材を招き入れた。
 目指したのは島前高校の魅力化で、教育を魅力的なものにすれば、地元の子供は島前高校に通うようになり人口の流出をとめることができるというもので、島前高校は生徒が減ったため1学級になっていた。これを2学級に戻して十分な教員の数を確保することがまず大きな課題だった。2学級になれば習熟度別のクラス編成も可能になる。就職を目指す生徒と大学進学を目指す生徒、それぞれの要望に合わせた教育が可能になる。
 そのためには地元中学校からの進学率を上げることが必須で、そこで2010年、島前高校生向けに公営の学習塾「隠岐國学習センター」を設立した。また、「島留学」を実践することで島外や県外からの生徒の確保とIターンを確保するというものだ。かつて廃校寸前だった高校が、今では各地から人が集まり海外からの留学生も来るようになったことは、紛れもない真実である。島全体が学びのフィールドとなり、人がいきいきと生活し新しいビジネスも始まっている現状に、驚くと共に可児市でも取り入れるべきものは多くあるのではないか。

 今回の研修では、若い世代を巻き込んだ多くの事例を学ぶことが出来たと共に、可児市議会と可児高校の取組みをについて情報発信することができた。各地で様々な取組みが進んでいるが、可児市の様に議会が関わっている例は稀だ。若い世代と地域の係りを繋ぐ役割を担うことの難しさを、グループディスカッションで訴える方が多かった。まさに地域コーディネーターの役割を誰が担うかは、これら地域が抱える課題を解決するうえで最重要課題である。可児市内の高校は私立校が1校、公立校が2校であり、今後県立高校という行政枠の違う学校に対し、どこまで協力できるか、また、学校側からの協力をどこまで求めていくかを検討していく必要がある。可児市内には他地域の高校へ通学する生徒も多く、市内の生徒全てを対象としたキャリア教育をどう進めていくかも今後の課題となる。学校・地域・行政・議会・企業などが一体となった係り繋がりの場を作り、そこから生まれる「地域を知り、地域を愛する」という郷土愛の波及効果に大いに期待できると共に、地域企業のリクルートの場となることが出来る。一年を通して行うキャリア教育への支援と、その結果を発表する場である高校生議会は、今後もその内容を充実すると同時に市内高校生への働きかけも検討していきたい。

       

       

       

       

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