日経グローカルに続き議員NAVIへの寄稿をしました。電子版で掲載されますので紹介します。
〈可児市議会はこんな議会です〉
可児市は岐阜県の南に位置し、愛知県との県境に接し、名古屋経済圏の衛星都市として団地開発が進み1970〜1980年代に急速に人口が増加したまちです。面積87.57㎢に人口10万人が暮らすコンパクトなまちですが、住宅団地を中心に急速に高齢化が進む大きな課題を抱えた地方都市です。
可児市議会の定数は22名で類似団体と比較すると、議員定数・報酬とも平均をやや下回る現状で議会活動を行っています。議会改革は、2003年に議会活性化特別委員会を設置し、一問一答方式の導入、委員会機能の充実、費用弁償の廃止など、出来ることから少しずつ改革を進めてきましたが、2007年7月の改選で2期・3期の中堅議員が落選し、保守系5人、公明2人、民主1人の8人の新人議員が誕生しました。8人の経歴は元国会議員秘書であったり、民間企業の役員経験者であったり、会社を経営していたり、商工会議所や青年会議所で活躍したりと多種多様ではありましたが、民間の感覚を兼ね備えた若い議員の集団でした。当時は、まだまだ保守的な考えの議員が多く、それじゃ自分達でやるしかないと新人議員8人で、定期的に集まり議会事務局や執行部の手を借りながら有志の勉強会を発足させました。それと同時に市内にある名城大学都市情報学部の昇秀樹教授にお願いし、大学のゼミ生と月1回の可児市議会昇ゼミを始めることになり、今でも学生と共にゼミは続いています。この8人の自主的な行動が可児市議会を変える大きな原動力となりました。
可児市議会の特徴として何かをしようとする場合、少人数のPT(議長の私的諮問機関であったり議会運営委員会の公的諮問機関であったりします)を作り十分に調査研究を進めてから事に当たることとしています。PTをつくることで目的を達成するための効率的な進め方をしているわけです。また、決算認定にあたり「民間企業では決算が重要で、黒字の部分をさらに伸ばし赤字の部分は削減するのが当たり前で、決算を経て新たな予算や中長期のビジョンを策定しているのに、行政と議会はなぜそれをしないのか?」との疑問が湧き上がってきました。そこで自然発生的に出来たのが予算決算サイクルです。決算審査に当年度の予算執行状況も注視しながら4週間をかけて慎重審議し、決算審査を通して感じたことや気づいたことを次期予算への提言として、全会一致で合意できたものを市長へ通知しています。この議会からの提言が生かされていなければ、当初予算において否決または修正となるわけです。また、改選を迎えた6月議会では、議長、委員会、特別委員会、議会報告会実施会議で次期議会への提言や引継ぎ事項を作成し、議会運営委員会で承認手続きをとり次期議会へ申し送ります。このことにより改選後の新しい議会では既に4年間の課題やテーマが明確となっており、議長マニフェストに沿って直ぐにスタートが切られます。任期4年間の議会ミッションは、前議会からの申し送りを尊重し新たな活動が始まる仕組みがここにあります。
〈地域課題解決型キャリア教育支援事業を始めた理由〉
議長時代、私の議会運営のモットーは、気づき(アイデア)→ひらめき(インスピレーション)→行動力(アクティビティ)→相互理解(コミュニケーション)→実施(インプルメンテーション)→規定(レギュレーション)です。気づいたことひらめいたことは何でもチャレンジしてみて、それが成功した場合、その事業を条例や規則などで規定していくことが大切です。2年間議長を務める間に様々なチャレンジをしてきましたが、中でも県立可児高校と行った地域課題懇談会(地域課題解決型キャリア教育支援事業)は大きな成果を上げつつあります。議長1年目初の定例会(9月議会)と議会報告会が無事終わった11月末、議会基本条例の条文を暗記しようと読み込んでいたところ、第3条に「市民の多様な意見を的確に把握し、これを市政に反映させるために必要な政策提言、政策立案等を行うこと」「市民の意思を尊重するため、市民参加の機会拡充に努め、情報公開を行うとともに、議会の議決及び運営に対して、その経緯及び理由を説明する責任を果たすこと」の2項が目に留まりました。議会基本条例では「市内に居住し、通勤し、通学する個人又は市内で活動する団体を」市民と定義しています。そこで「議会や行政は20歳以下の市民の声をどこで政策に取り入れているのか」という疑問が湧き、議会事務局に調査を依頼したところ、可児高校でのキャリア教育の取り組みの話を聞き、すぐに可児高校の校長先生と担当の浦崎先生と面談し思いが一致して支援事業がスタートしました。翌年1月には可児高校の取り組みを浦崎先生が説明する全議員対象の研修を実施、2月に本会議場で高校生議会とIPE(多職種間連携教育)手法を活用した意見交換を実施しました。その後も地域課題懇談会を可児医師会、可児金融業協会と実施し対象校を可児工業高校、東濃実業高校(御嵩町)へと拡大を図りました。
議会中心に進める事業ではどこかで限界が来る。その課題を解決するため浦崎先生と共に、可児高校OBに白羽の矢を立てNPO縁塾を立ち上げました。縁塾が中心となりコーディネートするエンリッチプロジェクトがスタートし、2015年の夏休みに「夏のオープンエンリッチプロジェクト2015」が開催されました。期間中71の講座が開かれ延べ400人の生徒が参加する大プロジェクトとなり、学校は1年生全員に参加を義務付けました。市の職員や隣町の職員、文化創造センターの館長、国際交流協会の事務局長、可児高校OBの現役大学生など、様々な講師陣による種々の講座が開催され生徒たちのやる気スイッチを刺激しました。今後も本気の大人と若い世代が交流する場の創出に力を入れていきます。
〈新たな取り組み 高校への出前講座〉
平成27年12月10日に可児市議会地域課題懇談会出前講座IN可児高校「18歳選挙権をきっかけに政治と選挙を考える」と題した出前講座を行いました。主催は可児市議会 議会改革特別委員会で場所は可児高校会議室、参加者は生徒35人、市長はじめ選挙管理委員会職員が5名、NPO縁塾会員5名、可児市議会議員17名です。可児市長が「政治と選挙にどう向き合うか」と題し講演し、私からは「地方議会からみた政治の役割」と題し、国と地方の仕組みの違い、年代別投票率や選挙へ行くことの意義などについて話をしました。その後9班にわかれ「どうしたら選挙に行くのか?」をテーマにグループディスカッションを行い、意思と関係なく生徒を「行く派」「行かない派」に分け、それぞれの立場から意見を出し合い、行くにはどうしたらいいかの結論付けをし、各班で発表し問題を共有しました。生徒からは「学校でも投票できるようにする」「国や地方の選挙の投票日を同じ日にすれば、投票率が上がり、経費も削減できる」といった意見が発表されました。なかには「若者の考えを反映させるため、年代別の人口に応じて一票に格差をつける」との提案もありました。
参加した生徒のアンケートでは、Q1.視野が広がり、理解が深まり、参加してよかった とてもあてはまる21。あてはまる11。どちらかというとあてはまる4。でまったくあてはまらない。あてはまらない。どちらかというとあてはまらない。はゼロ。Q2.社会・政治・選挙が、より身近に感じられるようになった。とてもあてはまる11。あてはまる19。どちらかというとあてはまる6。でまったくあてはまらない。あてはまらない。どちらかというとあてはまらない。はゼロ。Q3.自分の将来や日頃の生活について、より深く考えるヒントになった。とてもあてはまる17。あてはまる12。どちらかというとあてはまる7。でまったくあてはまらない。あてはまらない。どちらかというとあてはまらない。はゼロという結果となりました。
ここで参加した生徒の感想文を紹介します「今まで選挙なんてまだ先の話だからと考えようともしませんでした。講座に参加してみて、市長さんや可児の議員さんたちと話し、どうしたら選挙に行くのか考えました。いろいろな案が出て話し合いも深まりました。しかし、出た案が実行に移るのは、まだまだ先だと思います。これを機会に選挙について、これからの未来について考え直したいと思います」
今後は出前講座を各高校で開催することを視野に入れて活動します。また、平成28年2月10日開催の高校生議会、高校生が考え、提案する条例づくりを進めていきたいと考えています。
〈議会改革と地方創生〉
日本創成会議は、人口減少問題検討分科会の推計による896の自治体が消滅可能性都市であると公表しました。このことは自治体に大きな衝撃を与えることとなりましたが、処方箋もなく突然発表された自治体では未だにその影響から脱出できない状況です。日本版CCRC構想などにみられるように、地方と首都圏や大都市における関係の改善は非常に難しい状況にあります。国は平成26年12月に「ひと・まち・しごと創生総合戦略」を作成しました。それに基づき、各市町村で総合戦略が作成されました。その内容は地方経済の安定、若い世代の結婚・妊娠・出産・子育て、若い人が住みたいと感じるまちなど、残念なことにその内容は金太郎あめのごとくで、その政策・施策は似たものとなってしまい戦略といえるものとはなっていません。地方を変えるためには、多様な市民の意見を集約し、議論を重ねることができる地方議会こそが最も相応しい組織であり、議会報告会、意見交換会、各種懇談会などを通して得た市民の意見や要望を、議会が持つPDCAサイクルの中で反映させ、市長を中心とする執行機関に対し、議会が決定した意思を伝えることにより、よりよい施策となるよう徹底した議論をすることが必要です。また、地域への愛着や当事者意識の醸成、広い視野や新しい経験の獲得など、地域の魅力を知る場を作ることも議会の大きな使命のひとつです。ふるさと発展に寄与する人材の育成こそが、地方創生への大きな一歩となると確信しています。
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