【地方分権改革と道州制】
考察
地方分権は1990年代から活発に議論されてきた。その理由は、護送船団方式による中央集権システムの制度疲労、東京一極集中の是正、地方の少子高齢化問題、財政や人口の不均衡、補完性の原理に基づく行政の無駄の発生、地方の特色を活かした地域づくり等、これらを是正するため地方が自らの責任で自己決定し行政サービスを進めることが必要となり、首都機能移転と共に議論されてきた経緯がある。
民主党政権に地域主権改革と名称が変わったが、地方分権を進める事の重要度は変わってはいなかった。中でも、法律に基づき「国と地方の協議の場」を設置し、「義務付け枠づけの見直し」を行ったことは評価出来るが、今回の報告にもあったように対象4,076条項に対し見直しを実施できたものは636条項であり、その内容も重点事項とは言えないものが多かった。第一次二次見直しで、公営住宅の入居基準、道路の構造に関する基準、保育所の設備・運営に関する基準など地方独自の基準を設けるに至っているが、今後はこの法律の主旨を十分に理解したうえで積極的に国と地方の協議の場で議論を進めることが必要であり、国はその結果を尊重すべきであり、各省庁の既得権益を守ることを優先してはならない。
また、経済財政諮問会議により、国の出先機関の見直し案が提示され、国の出先機関のうち17機関で実施する事務について地方へ移譲可能と整理をした。その中にはハローワークや地方農政局、地方整備局がふくまれている。中でも地方整備局の廃止に関しては、広域連合が進んでいない中部や東北といった地域では、その受け皿がない状態での受け入れとなり、出先機関の原則廃止に対応できるか疑問が残る。地方分権を進めるべきとの意見に逆行するような意見となるが、国の役割と都道府県の役割、基礎自治体の役割が明確になっていない現状と、関西や九州のような都道府県規模の広域連合が進んでいない地域では対応が難しいのではないか、原則廃止ではなく対応できる地域から廃止とすべきではないか。
次に道州制について過去の流れから考えると国の仕組みを大きく変えることで、新しい体制を作る意味では議論の価値はあるが、道州制は地方分権を進める上での一つの方法であり、道州制ありきの考え方は違うのではないか、その仕組み制度に関する議論が欠如しており、「道州制はなんとなくよさそうだ」的な流れを感じることは否めない。導入のメリット・デメリットを具体的に明示しながら議論を進めるべきあるが、現在の中央集権システムが制度疲労を起こしている現状には危機感をもち、何らかの対応が必要なことも事実であり、地方の自立を促す大幅な制度設計を進めることが大切だ。10年後を目途に具体的な地方分権進行工程表が必要である。
地方財政審議会の提言抜粋
地方分権改革推進から地域主権戦略大綱へ
(1)地域の特色を生かした地域経済の活性化
我が国の経済は、円高・デフレ不況が長引き、国内総生産(名目)は3年前の水準とほぼ同程度にとどまっている。直近の地域経済動向では、すべての地域で景況判断が下方修正されており、地域経済は厳しい状況にある。このことは、地方税や地方交付税の原資となる国税5税の伸び悩みを通じて、巨額の地方財源不足の継続につながる。こうした状況から脱却するためには、日本経済の再生が必要であるが、地域経済の活性化なくして日本経済の再生は見込みがたい。
このため、何よりも地域の元気を創造し、地域からの経済成長に向けた取組みを促していく必要がある。その際、地方財政は、地域からの経済成長の前提となる基盤を提供する役割を担う。具体的には、地域資源を活用した地域経済循環の創出に取り組むことが必要である。地域には、自然、景観、文化、再生可能エネルギー、産品等の多様な地域資源がある。これらの特色ある地域資源を再発見し、地方自治体が核となり、産業界、大学等、地域金融機関(産・学・金)の連携による事業化を通じ、地域経済循環を創出する。こうした取組みにより、地域からの経済成長が促進される。
地方財政は、地域資源を再発見する人材の供給、連携するネットワークの形成、事業化に必要な資金融通の円滑化などといった、地域からの経済成長の基盤を財政面から支える。このような取組みは、それぞれの地方自治体が、地域の特色を生かした地域経済の活性化のための構想を主体的に検討し、決定することによって可能になる。その際、地域の多様な状況に対応するための柔軟性、地域全体の活性化を計画的に図るための総合性、じっくりと成果を生み出すための継続性の確保が必要である。
国は、地域からの経済成長に向け、特定の施策を強制するのではなく、地方自治体が主体的に判断し、創意工夫を発揮できるようにすべきである。とりわけ、自由度の高い地方財源を確保するとともに、国による義務付け・枠付けの見直しが必要である。
(2)地方一般財源の充実強化
地方に求められる役割がますます増大する一方で、経済成長が低水準にとどまっていることによる地方税及び国税の伸び悩みから、地方財政は、近年、巨額の財源不足が続いている。地方の借入金残高は約200兆円と高水準で推移しており、特に近年増加傾向にある臨時財政対策債の抑制が、最大の課題となっている。歳入決算額に占める地方税の割合は、ピーク時の44%(平成19年度決算)から、34%(平成23年度決算)まで下がっている。
このような極めて厳しい地方財政の状況の下で、地域からの経済成長を促進するためには、地方財政がその役割を発揮できるよう、地方一般財源の充実強化が必要である。
2 住民生活の安心の確保
(1)地方が担う社会保障の充実
住民が安心して生活を送るためには、社会保障による多様なセーフティネット、つまり必要なときに必要な現物サービス(対人社会サービス)を受けられることが重要である。社会保障のうち、年金を除く医療、介護、子育て、障害者福祉、雇用などの多くは現物サービスであり、住民に身近な地方自治体を通じて国民に提供されている。このことから、地方自治体が果たす役割はますます増大するものとなる。
また、地方自治体は、現物サービスの提供に際し、国の制度を運用するとともに、それでは対応しきれない様々なニーズについて、地方単独事業によりきめ細かく対応している。このように、全国レベルのセーフティネットである国の制度と、地域の実情等に応じたきめ細かなセーフティネットである地方単独事業の、2つのセーフティネットが組み合わさることによって、社会保障制度全体が充実強化したものとなっていく。住民生活の安心の確保のためには、地方自治体が地域の実情に応じた現物サービスの提供ができるよう、その安定的な財源の確保とともに、国の制度についての義務付け・枠付けの見直しが必要である。
(2)地方財源の確保と地域の実情に応じたサービス提供
地方の社会保障給付の財源については、地方消費税の充実及び消費税の交付税法定率分の充実に係る法律が成立し、強化されることとなっている。しかし、地方の社会保障給付の費用のすべてを賄うものではない2。引き続き、自然増を含む社会保障給付の費用増に対応するため、税源の偏在が小さく、税収が安定的な地方税制度を構築するとともに、地方交付税等の一般財源総額を確保する必要がある。
地方自治体は、住民に現物サービスを提供する際、社会保障4経費(年金、医療、介護、少子化対策)の分野だけではなく、障害者福祉、生活保護、雇用などを総合的に提供している。このため、例えば、地域包括ケアシステム3の構築は、今後重要になってくる。住民に身近な市町村が中心となり、地域の医療機関、介護サービス事業者等と連携し、地域の実情に応じた適切なサービスを提供することができるようにすべきである。今後も、少子高齢化が進行することが見込まれることから、国民健康保険、介護保険などの様々なセーフティネットについて、受益と負担の均衡がとれた持続可能な制度を確立することとされている。その際には、これらの制度の運営責任を有する、地方の意見を十分に踏まえることが必要である。
さらに、生活困窮者対策と生活保護制度の見直しについて、総合的に取り組むこととされている5。その際には、地方の実情を踏まえつつ、生活困窮者の自立等を促進するよう、地方が生活支援から就労支援まで、一体的に実施できる仕組みを構築することが必要である。
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