日本経済新聞社 産業地域研究所が発行する「日経グローカル」No283号への寄稿依頼があり、このたび発刊されたのでその内容を掲載します。
〈議会改革のきっかけ〉
「第10回マニフェスト大賞グランプリは可児市議会です」六本木ヒルズ49階で開催された授賞式壇上で耳にした瞬間、10万市民の皆さんのご理解と22人全議員の協力、議会事務局の支援なしにこの賞はいただけなかったと思うと、感極まり熱いものがこみ上げてきました。
私は、平成19年7月の参議院選挙と同日選挙となった可児市議会議員選挙で初当選して以来3期9年目の議員生活を送っています。初当選当時を振り返ってみると、2期3期目の中堅議員があえなく落選し、保守系5人、公明2人、民主1人の8人の新人議員が誕生しました。8人の経歴は元国会議員秘書であったり、民間企業の役員経験者であったり、会社を経営していたり、商工会議所や青年会議所で活躍したりと多種多様ではありましたが、民間の感覚を兼ね備えた若い議員の集団でした。当時12人の最大会派に所属した私は会派のベテラン議員から「最大会派は市長の応援団だから余計なことはするな。少数会派を相手にするな。一般質問はしたけりゃ勝手にやりなさい。市議会議員はそれぞれ選挙の時のライバルだから教えてもらおうと思うな」等々の指導があり、会派所属の新人議員は驚いたものです。それじゃ自分達でやるしかないと新人議員8人で、定期的に集まり議会事務局や執行部の手を借りながら有志の勉強会を発足させました。それと同時に市内にある名城大学都市情報学部の昇秀樹教授にお願いし、月1回の可児市議会昇ゼミを始めることになり、今でも学生と共にゼミは続いています。この8人の自主的な行動が可児市議会を変える大きな原動力となりました。
私が先ず行ったのは先進地の視察です。当時、議会基本条例を初めて制定した栗山町への視察を計画し、「北海道へ視察に行きましょう」と会派のベテラン議員には、その詳細を説明することなく、栗山町、登別市等議会改革先進地の視察に出かけました。栗山町では60人ほどの視察に来た議員を前に、堂々と意見を述べられる橋場議長の姿を今でも鮮明に覚えています。その後は議会改革に理解を示してくれるベテラン議員を議長にするため8人でよく相談したものです。一期目の新人議員で常任委員長や特別委員長、プロジェクトチーム(PT)のリーダーなどの役職を経験できたことも大きな力となりました。
〈可児市議会の特徴〉
可児市議会の特徴として何かをしようとする場合、必ず少人数のPT(議長の私的諮問機関であったり議会運営委員会の公的諮問機関であったりします)を作り十分に調査研究を進めてから事に当たることとしています。PTをつくることで目的を達成するための効率的な進め方をしているわけです。また、決算認定にあたり「民間企業では決算が重要で、黒字の部分をさらに伸ばし赤字の部分は削減するのが当たり前で、決算を経て新たな予算や中長期のビジョンを策定しているのに、行政と議会はなぜそれをしないのか?」との疑問が湧き上がってきました。 そこで自然発生的に出来たのが予算決算サイクルです。決算審査に当年度の予算執行状況も注視しながら4週間をかけて慎重審議し、決算審査を通して感じたことや気づいたことを次期予算への提言として、全会一致で合意できたものを市長へ通知しています。この議会からの提言が生かされていなければ、当初予算において否決または修正となるわけです。また、改選を迎えた6月議会では、議長、委員会、特別委員会、議会報告会実施会議で次期議会への提言や引継ぎ事項を作成し、議会運営委員会で承認手続きをとり次期議会へ申し送ります。このことにより改選後の新しい議会では既に4年間の課題やテーマが明確となっており、議長マニフェストに沿って直ぐにスタートが切られます。任期4年間の議会ミッションは、前議会からの申し送りを尊重し新たな活動が始まる仕組みがここにあります。
〈地域課題懇談会(地域課題解決型キャリア教育支援事業)〉
議長時代の私の議会運営のモットーは、気づき(アイデア)→ひらめき(インスピレーション)→行動力(アクティビティ)→相互理解(コミュニケーション)→実施(インプルメンテーション)→規定(レギュレーション)です。気づいたことひらめいたことは何でもチャレンジしてみて、それが成功した場合、その事業を条例や規則などで規定していくことが大切です。2年間議長を務める間に様々なチャレンジをしてきましたが、中でも県立可児高校と行った地域課題懇談会(地域課題解決型キャリア教育支援事業)は大きな成果を上げつつあります。議長1年目初の定例会(9月議会)と議会報告会が無事終わった11月末、議会基本条例の条文を暗記しようと読み込んでいたところ、第3条に「市民の多様な意見を的確に把握し、これを市政に反映させるために必要な政策提言、政策立案等を行うこと」「市民の意思を尊重するため、市民参加の機会拡充に努め、情報公開を行うとともに、議会の議決及び運営に対して、その経緯及び理由を説明する責任を果たすこと」の2項が目に留まりました。議会基本条例では「市内に居住し、通勤し、通学する個人又は市内で活動する団体を」市民と定義しています。そこで「議会や行政は20歳以下の市民の声をどこで政策に取り入れているのか」という疑問が湧き、議会事務局に調査を依頼したところ、可児高校でのキャリア教育の取り組みの話を聞き、すぐに可児高校の校長先生と担当の浦崎先生と面談し思いが一致して支援事業がスタートします。翌年1月には可児高校の取り組みを浦崎先生が説明する全議員対象の研修を実施、2月に本会議場で高校生議会とIPE(多職種間連携教育)手法を活用した意見交換を実施しました。その後も地域課題懇談会を可児医師会、可児金融業協会と実施し対象校を可児工業高校、東濃実業高校(御嵩町)へと拡大を図りました。
〈エンリッチプロジェクトへ〉
議会中心に進める事業ではどこかで限界が来る。その課題を解決するため可児高校の浦崎先生と共に、可児高校OBに白羽の矢を立てNPO縁塾を立ち上げました。縁塾が中心となりコーディネートするエンリッチプロジェクトがスタートし、2015年の夏休みに「夏のオープンエンリッチプロジェクト2015」が開催されました。期間中71の講座が開かれ延べ400人の生徒が参加する大プロジェクトとなり、学校は1年生全員に参加を義務付けました。市の職員や隣町の職員、文化創造センターの館長、国際交流協会の事務局長、可児高OBの現役大学生など、様々な講師陣による種々の講座が開催され生徒たちのやる気スイッチを刺激しました。今後も本気の大人と若い世代が交流する場の創出に力を入れていきます。
〈今後の取組み〉
今後、地域課題懇談会は地域課題懇談会実施会議(会議規則に協議等の場と定める)と議会改革特別委員会で進められていきます。12月10日には可児高校において、議会改革特別委員会と高校生9人と縁塾メンバーが企画し、市長と選挙管理委員会の協力を得て「18歳選挙制度を考える」と題した地域課題懇談会出前講座を行いました。今後は出前講座を各高校で開催することを視野に入れて活動します。また、平成28年2月10日開催の高校生議会、高校生が考え、提案する条例づくりを進めていきたいと考えています。
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